賃貸管理
アパートとマンションの違いを考えたとき、真っ先に浮かぶのは、建物の高さではないでしょうか。
一般にアパートと言えば、3階程度までの低層で、マンションは4階以上の中高層です。
高い建物には、頑丈な造りが必要なため、マンションはRC造(鉄筋コンクリート造)で、アパートは木造や鉄骨で建設されるのが通常です。
この構造的な違いは、建設費として直接跳ね返ります。
それは即ち、回収のための家賃に反映されるということで、マンションの家賃が高いのは言うまでもないですが、経営面ではそれだけではありません。
建物には減価償却という考えがあり、新築から一定の期間、購入費を減価償却費という名目で経費計上できます。
減価償却費というのは、支出がない経費なので、経営面で非常に大きな意味を持ちます。
木造のアパートの場合、耐用年数が22年で償却率が高く、減価償却費が大きくなります。
減価償却費が大きくなれば、それだけ利益が圧縮され、税負担が軽くなります。
RC造のマンションでは、耐用年数が47年と木造より長いですが、償却率が低いので、少ない減価償却費を長期間で計上していきます。
一見すると、減価償却費が大きいほど、単年度の会計上は有利に思えますが、減価償却とは、経年によって建物の価値が失われていくのと同じことです。
つまり、木造は構造的な耐久度でRC造に劣るため、耐用年数が短く、価値が早く失われます。
また、建設費の借入期間が短くなり、毎月の返済額が増えるので、減価償却費の大きさが、必ずしも手元に残る現金と一致するとは限りません。
しかし、アパートでは、建設費に対して戸数を増やしやすく、耐用年数の短さを、建設費の少なさと、利回りによってカバー可能です。
アパートとマンションの違い、支出と収入のバランスを良く考え、長期的な視点で検討していく必要があるでしょう。
アパートオーナーの仕事は、他の賃貸物件と同じで、経営と管理という2つの仕事があります。
一般にアパートはマンションよりも安価に建設でき、その割には部屋数を多く取れることから、投資金額が低く回収が早くなる可能性を秘めています。
だからといって、投資金額なりの経営や管理では、アパート経営は確実に失敗するでしょう。
投資に対する収益性のバランスと管理コストを考え、常に最大の利益を得るための方法を考えていくのが、アパートオーナーとしての仕事です。
ここで考えなくてはならないテーマは、「最大の利益はどうしたら出るか」という点です。
このテーマは複雑な要因からなる難しい問題ですが、それ以前に賃貸物件で最大の利益を出すには、満室になって安定した賃料収入が入ってくることが、大前提なのは言うまでもありません。
入居者の満足度を上げる事こそが最も大切で、繊細な対応をする管理会社や斡旋力のある不動産会社と、アパートオーナーが手を組めるかどうかが、経営の成否に関わると考えて間違いないでしょう。
アパートは長期で借りる人がマンションよりも少なく、居住者の入れ替えが頻繁に起こります。
入居者の減少による空室リスクと収入の低下は顕著で、今は建物を建てるだけの経営で成功する時代ではありません。
また、賃料が安いので若年層が居住者になりやすく、モラルが欠如している人の割合が増えやすいのは、残念ながら避けられない問題です。
マンション並みの防音効果をアパートで得ようとすれば、建設費はどうしても膨大になってしまいますが、その現実とは関係なく居住者は快適性を求めます。
オーナー自らトラブルに対応しても良いですし、信頼できる管理会社に任せてしまっても良いでしょう。
居住者は誰がトラブルに対応してくれるかではなく、早くトラブルが解決することを望むのであって、そのためのコストは必ず利益となって跳ね返ってきます。
アパート経営の主業務とも言えるのが、管理業務です。
専門に引き受ける管理会社が多数あるくらい、管理業務は特に時間的な負担が多い特徴を持っています。
管理業務は大きく分けると、入居者に対する管理と、建物に対する管理に分かれます。
入居者に対する管理は、入退居・更新時の契約関係、集金業務、滞納時の催促、隣人トラブル対応など、簡単に考えてもこれだけあります。
他には、退去時の原状回復対象の確認と合意文書作成、敷金の清算もしなくてはなりません。
更に入居審査、カギの交換、ゴミや駐車・駐輪管理など、数え出したらキリがありません。
建物の管理は、主に入居者から連絡のあるトラブル、例えば水漏れ、給湯機の故障など設備関連です。
また、手間の掛かる清掃は、共用部分だけではなく、いつ入居希望者が訪れるかわからない空室も対象です。
このような短期や中期で発生する事項の他に、中長期で発生する各部屋の設備トラブルやリフォーム時に、工事手配や立ち会いも仕事内容の1つです。
こうした管理業務は、戸数が多ければ発生率も高くなり、入居率を上げなければ収益が生まれない性質から、賃貸経営の宿命でもあります。
アパートさえ建てれば後は自宅でのんびりなど、夢のまた夢になってしまうのが管理業務の多さなのです。
致命的なのは、これほど大変な管理業務であっても、「直接お金にならない」点でしょう。
忙しく動き回って住みやすい物件を保つことは、入居率を上げる非常に大切な仕事ですが、オーナーの人件費が発生する訳ではないのです。
果たして管理業務は、人件費でどのくらいなのか、一度は考えてみなければならないテーマです。
自分の時間を使ってでも管理費を削減するのか、家賃の数パーセントを負担して管理会社に委託し、経費として計上するのが良いのか。
最大の収益を得るための合理的な方法が、自分で管理を行うことなら自分で行いましょう。
そうではない場合、管理費と管理会社について、考える機会は必ず来るはずです。
アパートを建設・購入した後の経費は、投資を回収し、収益不動産として確立していくためにも、経営上、特に気を使わなくてはなりません。
いくら、節税効果が得られるといっても、収支が永遠に赤字続きでは、本来の目的と異なるでしょう。
そこで、どのような経費が発生するか確認してみます。
・租税公課
アパート取得時に発生する、不動産取得税、登録免許税、印紙税、毎年発生する固定資産税、都市計画税、事業税などが該当します。
同じ税金でも、所得税と住民税は、経費とすることはできません。
固定資産税と都市計画税は、土地に対しても発生しますが、住宅が建つと大きく軽減される特例があります。
また、建物に対しても新築から3年間の減額措置があります。
・減価償却費
アパートの取得費を、複数年で経費化するものです。
経費ですが、資金が流出しないので、会計上のメリットが非常に大きく、しかも経費の中で大きな割合を占めます。
定額法による減価償却の場合、2,500万の建設費として、木造であれば115万円を、鉄筋コンクリート造なら55万円を毎年経費計上し、元の建設費(建物の価値)が1円になるまで続きます。
・借入金利息
アパートの取得に融資を利用した場合、利息だけは経費とすることができます。
仮に2,000万円の借入金があるとして、年利が4%なら、単純計算では初年度80万円にもなります。
・損害保険料
建物に対して、地震・落雷・洪水等の自然災害や、火災時の保険に加入するための保険料のうち、当該年度に相当する金額です。
保険料はオプションによって全く異なります。
・管理委託料
管理会社に管理を委託した場合に発生します。
家賃の5%程度が相場で、家賃6万円×4戸とすると、月額で24万円×5%=1万2千円、年額で14万4千円になります。
・修繕費
入居者が退去したときの部屋の修繕と、建物全体に対する修繕に分かれます。
修繕規模によって異なりますが、発生しやすい入居者の退去では、敷金(関西では敷引)から補填できるため、それほど大きな負担にはなりません。
その他、共用部分(玄関や廊下等)の電気代、会計を税理士に依頼している場合の報酬などが経費になります。
毎年掛かる税金、アパートを取得した時の税金に分かれ、
負担額も大きいのでしっかり理解しましょう。
課税標準額とは基本的に固定資産税評価額です。
■固定資産税・都市計画税
毎年1月1日時点の不動産(土地・建物)に課税され、また3年ごとに評価替えを行い課税額が変わります。
都市計画税は市街化区域内であれば課税されます。
固定資産税額:課税標準額×1.4%
※1.4%は標準税率で地域により異なります。
都市計画税額:課税標準額×0.3%
特例による軽減措置が適用になれば、課税標準額は減額されます。
■所得税
毎年の所得に対して課税され、確定申告が必要です。
不動産所得は他の所得(給与や事業など)と通算できます。
税額:(収入-経費-控除)×所得税率
※控除には基礎控除、保険料などが含まれます。
※所得税率は5%~40%の6段階で別途控除額もあります。
※2.1%は復興特別所得税です。
■個人事業税
毎年の事業所得が290万円以上なら課税されます。
確定申告していれば申告する必要はありません。
税額:(収入-経費-控除)×5%
※控除は青色申告特別控除を含みません。
※5%は不動産貸付業の場合です。
不動産貸付業と扱われ個人事業税を負担するのは、10部屋以上で経営している場合です。
■印紙税
アパートを取得した時は建設工事請負契約書や、売買契約書に収入印紙を貼ると納税になるので、後から納める税金ではありません。
■登録免許税
不動産の登記に対して課税される税金で、アパートを取得した時は、所有権保存登記(建設)か、所有権移転登記(建売)が必要になります。
所有権の保存登記:課税標準額×0.4%
所有権の移転登記:課税標準額×2.0%
■不動産取得税
アパートを建設・購入すると課税される税金です。
税額:(課税標準額-控除額)×3%
控除額は1戸あたり40㎡から240㎡までの場合、1戸につき1,200万円です。
アパート経営というのは、建設から始めると出資は大きいですが、リターンが大きく節税効果も高いので、土地の活用方法では最もポピュラーです。
借入金の返済を、家賃収入でまかない、完済後は収益だけの不動産に生まれ変わるというのが、アパート経営の理想的なプランです。
同じ資金があるとき、アパートとマンション・戸建を比べると、一戸あたりの金額は、アパートのほうが少なくて済みます。
戸数が多くなるということは、空室リスクが分散できるので、収入が安定しやすいというメリットは、賃貸経営にとってとても大きいでしょう。
節税面では、住宅用地としての固定資産税の軽減、相続税の評価減、収支がマイナスでも、事業所得として他の取得と通算できるメリットがあります。
考え方次第ですが、税負担の軽減というのは、収入ではないものの必ず発生する支出を抑えるという点で、収入と同じような意味を持っています。
対するデメリットについては、戸数を多くできるアパートのメリットと一蓮托生です。
地域で部屋を借りたい人が少なくなると、戸数が多いだけに影響も大きく、単身が多くなりがちなアパートでは、頻繁に入退居が繰り返されます。
必然的に、住人同士でのトラブルが起こる可能性は高く、建設費を掛けずに戸数を得られる分、トラブル対応等の管理が増えていくことになります。
その対策として収益は落ちますが、管理会社への委託により、トラブル対応を自分でしなくても済みます。
しかし、トラブルの多いアパートは、入居者が減っていくのを避けられないので、管理会社の選定も、アパート経営の大きなポイントになるでしょう。
また、管理だけではなく、経営にも不安があるなら、家賃保証などのサービスを利用して、手間を掛けずに収益不動産を保有し続けることも可能です。