相続について
人生100年時代と言われるようになりました。現実に100歳の誕生日を自身が迎えるかどうかはわかりませんがライフプランで90歳までの計画を立てるのは現実的に必要になっています。
そんな昨今において財産の管理について年老いて自身の判断に自信がなくなった場合家族信託という方法があります。
一般では「家族信託」で広まっていますが
正式な名称ではなく、正しくは「民事信託」と言います。
そもそも「信託」とは、その名の通り、信じて託すことを意味します。
「自分の大切な財産を信頼できる人に託し、その財産を自らが定めた目的に沿って管理・運用してもらう」制度を指します。
もともとは、信託会社や信託銀行が営利目的で行う「商事信託」が主流で、財産を託される側(受託者)に信託業の免許が必要であったり、受託者に財産を管理・運用してもらう上で信託報酬が発生するといった特徴がありました。
しかし、平成18年に「信託法」が改正( 平成19年施行 )されることで、新たに「民事信託」という制度の活用が可能となりました。
「民事信託」は「商事信託」と違って営利を目的としません。
収益を上げるというより、財産を適切に管理することが目的のため、 信託報酬を発生させないことも可能ですし、 受託者になるために信託業の免許も必要ありません。
そして、その中でも家族が受託者となって行う民事信託のことを、俗に「家族信託」と呼んでいます。
家族信託の中では、
「委託者」
「受託者」
「受益者」
という3つの登場人物が存在します。
まず、「委託者」ですが、これは財産を託す側のことで、財産を託される側を「受託者」と呼びます。
「委託者」と「受託者」との間では信託契約が結ばれ、この契約の中で委託者がどの財産を信託するのかを決定します。
さらに信託した財産(信託財産)の管理・運用の目的や、信託財産から生じた利益を誰が取得するのかを定めます。
また、受託者が信託財産を管理・運用した中で利益が発生した場合に、この利益を取得する者を「受益者」と呼び、「委託者」は自らを「受益者」とすることも、第三者を「受益者」とすることも可能です。
家族信託においての最大のメリットは資産凍結の回避にあります。
通常、 財産を管理・運用・処分する上では本人の判断能力が必須となります。
しかし、加齢や認知症等によって判断能力が不十分となった場合、自分自身でそういった行為を行うことができなくなる恐れがあります。
特に不動産の売却時に困る方が多いです。
両親が施設へ入所する資金等を捻出するため、両親名義の実家を売却したいが、本人は認知症で判断能力を欠いており売買契約を締結することができないというケースが度々見受けられます。
このような場合、家族信託なら「不動産を信託」しておくことで、売買契約の締結や登記名義移転の手続きなどを「受託者」が本人に代わって行うことができます。
また、預貯金の入出金・株式の売買においても同様です。
家族信託を活用することで、本人の判断能力に関係なく資産の運用を継続して行えるようになります。
ただし、信託契約の締結自体には本人の判断能力が必要なため、本人が元気なうちに信託契約を締結しておく必要があります。
このように自由度が高く非常に便利な家族信託ですが、残念ながらフォローできない部分もあります。
家族信託では後見制度とは異なり、家庭裁判所の監督が及びません。
受託者は自分自身で十分に注意をしなければ、リスクのある取引によって財産を減少させてしまう危険も伴います。
また、家族信託では本人の身上監護まで任せることはできません。
身上監護とは、本人の治療、療養、介護などに関する手続きを行うことを指します。
任意後見人(あるい法定後見人)には財産管理の他、身上監護の権限が認められており、財産の管理や処分にとどまらず、身のまわりの手続きを行うことが可能です。
高齢になった場合、財産の管理だけでなく入院手続きや施設の入所手続き、役所での手続き等を自身で行うのが困難になることが予想されます。
しかしながら、こういった身の回りの手続きは家族信託ではカバーできないのが現状です。
そのため、ご家族の生活をきめ細かくサポートするためには、家族信託を選択するか・任意後見制度を選択するかといった二者択一ではなく、任意後見制度と家族信託を併用して、それぞれのメリットを上手に活かすことが重要になってくるのです。
相続や認知症への対策として、不動産の家族信託(不動産信託)を行う人は非常に多いです。事前に賃貸マンション・アパートの家族信託を実施するからこそ、認知症を発症しても家族が管理でき、相続発生時は特定の人へ不動産を渡すことができるのです。
このとき、賃貸用不動産に多くの入居者がいることで収支がプラスになっているのであれば特に問題ないものの、場合によっては赤字になっているケースがあります。
そうした赤字経営の不動産については、家族信託を活用するかどうかは慎重に検討したほうがいいです。不動産信託を実施すると、赤字との損益通算ができないからです。
もちろん、それでも家族信託を実施したほうが優れるケースがほとんどです。
家族信託によって不動産の管理を他の人に託す場合、損益通算ができなくなります。
「自分の所得」「家族信託した不動産運用からの所得・損失」は明確に分けられるようになるのです。
ただ、不動産信託を実施して土地・建物を信託財産に含める場合、別に信託口(しんたくぐち)口座を開設することになります。信託口口座とは、要は「家族信託で受託者(財産管理する人)が管理するための預金口座」だと考えれば問題ありません。
こうして、委託者(依頼する人)とは完全に別物として他の人が家賃収入を分けて管理するのです。
家賃収入の収益や損失は受益者(利益を受け取る人)である親が受け取るものの、家族信託だと別に不動産を管理することになるため、たとえ不動産から赤字が出たとしても本人の所得との損益通算はできなくなるのです。
また、法人などであれば赤字がでれば翌年以降への繰り越しが可能です。
ただ個人事業主として不動産経営をしている場合、赤字が出たとしても翌年以降の繰り越しはできないようになっています。
損益通算や赤字の繰り越しを含め、赤字が出るとその分だけ損失を受けるようになると考えましょう。
そうしたとき、疑問になるポイントとして「そもそも赤字不動産を家族信託する意味があるのか?」があげられます。
大きな収益を生んでいる不動産であれば、必ず事前に家族信託を実施しなければいけません。不動産信託なしに認知症を発症すると、「本人のお金を使ってのリフォームができない」「新たな入居者との契約や既存入居者との契約更新ができない」などの状態に陥ってしまいます。
儲けが出ている不動産ならば家族信託は必要ですが、赤字不動産の場合は損益通算できないデメリットがあるため、不動産信託を利用するのは損なように思えてしまいます。
ただ、認知症を発症すると不動産に関わる契約ができなくなるため、より収益性が悪化します。また資産が凍結されてしまい、不動産を売却することもできません。
つまり不動産がさらに負の遺産へと変わります。そのため赤字不動産は損益通算できないにしても、不動産信託は必ず行うようにしましょう。